大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成10年(ワ)2290号 判決 1999年5月14日

原告

外波山洋右

被告

高村江里子

主文

一  被告は、原告に対し、四三四万七七〇四円及びこれに対する平成八年一〇月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、五三〇〇万円及びこれに対する平成八年一〇月四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が左記一1の交通事故の発生を理由に被告に対し民法七〇九条により損害賠償請求をする事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故

(一) 日時 平成八年一〇月四日午前一〇時三五分ころ

(二) 場所 名古屋市南区平子二丁目一番一七号先路上

(三) 加害車両 被告運転の普通乗用自動車

(四) 被害車両 原告運転の原動機付自転車

(五) 事故態様 原告が被害車両を運転して事故現場の信号機のない交差点を北進横断しようとしたところ、交差道路を東進してきた加害車両と出会い頭に衝突した。

(六) 傷害 原告は、本件交通事故により左大腿骨骨折、左大腿動脈損傷の傷害を負い、左大腿を切断した(平成九年七月二四日症状固定)。

2  責任原因

被告は、交差点に進入するに当たり、前方の安全を確認すべき注意義務に違反した過失がある。

3  損害額

(一) 治療費 七三万一五八〇円

(二) 休業損害 一八一万二九九〇円

4  損害の填補

原告が自賠責保険及び被告加入の任意保険から受けた既払い金額は二〇〇九万円である。

二  争点

被告は、本件事故による治療費・休業損害を除く損害額を争うほか、原告にも一時停止の注意義務違反があるとして七割を超える過失相殺をすべきと主張しているが、原告は自己の過失は三割程度であると主張する。

第三争点に対する判断

(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨記載することを省略する。)

一  損害額

1  治療費 七三万一五八〇円

当事者間に争いがない。

2  休業損害 一八一万二九九〇円

当事者間に争いがない。

3  付添看護費(請求額五五万九〇〇〇円) 零円

甲第二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故後平成八年一一月五日に左大腿切断術を受け、同年一二月二八日まで第一回目の入院をしたこと、その後、平成九年一月二一日から同年四月四日までリハビリテーション科に、同月五日から一二日まで整形外科に二回目の入院をしたことが認められるが、この間に医師により付添看護が必要と判断されたことはなく、他にこれを認めるに足る証拠はない。よって、付添看護費の請求は認めることができない。

4  入院雑費(請求額二五万二〇〇〇円)二一万八四〇〇円

原告が本件事故による傷害の治療のために一六八日間入院したことは、当事者間に争いがない。そこで入院雑費として一日当たり一三〇〇円として合計二一万八四〇〇円を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

5  通院交通費(請求額二万四九四〇円) 一万二九〇〇円

原告は、本件事故により合計二九日間通院治療したと主張するが、甲第三号証の一四ないし三〇によれば、原告が一五日間通院したことは認められるものの、これを超えて通院していたことを認めるに足る証拠がない。そこで一五日間につき通院交通費として当事者間に争いのない一日当たり八六〇円を乗じて合計一万二九〇〇円を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認める。

6  逸失利益(請求額六八七九万〇七三一円) 四八〇八万三二八四円

原告に本件事故に基づく傷害により四級の後遺障害が残ったことは当事者間に争いがない。

甲第七、甲第八、第一〇号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告は本件事故後も従前と同じ会社で働き、その収入は事故前に比べて月当たり一万円以上増加していることが認められる。しかし、右の各証拠によれば、原告は事故後店長から店員に降格となっていること、その仕事は洋品販売の接客業であって、ほぼ立ちづめの仕事であることから考えると、給料の維持・増加は原告の不断の努力及び経営者の温情によるところが大であると考えられること、今後原告が同じ職場でいつまでも働くことができるとの保証はなく、ハンデキャップを持つ原告が転職・再就職先を見つけるのは困難であることも十分予想されることが認められ、これらの事実に照らすと、現実に収入減のないことを考慮せず、事故直前の収入である月額一九万円に労働能力喪失率九二パーセント、症状固定時から満六七歳までの稼働可能年数四四年に対応する新ホフマン係数二二・九二三〇を乗じた四八〇八万三二八五円を後遺障害による逸失利益として本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

190,000×12×92%×22.9230=48,083,284.8

7  慰謝料(請求額一九九四万円) 一七八二万円

原告の症状固定日までの入通院の状況及び後遺障害の状況に照らすと、入通院慰謝料として二三二万円、後遺障害慰謝料として一五五〇万円を本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。

8  損害合計額

以上認定した事実によれば、原告の受けた損害の合計額は六八六七万九一五五円となる。

二  過失相殺

1  甲第五号証、甲第一〇号証、原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、本件交差点はいずれも幅員六メートルの道路が交差する交差点であるところ、南北道路に一時停止の交通規制があり、かつ、本件事故当時、交差点の南西角にほぼ接して車高の高い駐車車両があったため被害車両の進行方向(南から北に向けて進行)から左方の見通しが悪かったこと、原告自身は交差点に入る際の走行態様についてまったく記憶がなく、他方、被告は交差点手前から低速度で走行していたものの、衝突に至るまで被害車両が走行してくるのに気づいていなかったこと、加害車両及び被害車両の損傷状況に照らしてもいずれがより高速度であったかは不明であることが認められる。

2  これらの事実に照らすと、原告が一時停止をしていれば加害車両との衝突は十分に避けることができたと認められるから、原告には一時停止を怠った過失が認められるけれども、原告が減速をも怠ったとまでは認められず、したがって、過失割合は原告が六五パーセントに対して被告が三五パーセントと見るのが相当である。

3  よって、前記損害合計額から原告の過失割合を控除すると、被告の賠償すべき損害額は二四〇三万七七〇四円となる。

68,679,155×35%=24,037,704.2

三  損害の填補

本件事故に基づく原告の損害について、既に二〇〇九万円が支払われたことは当事者間に争いがないから、これを右の損害額から控除すると、なお被告が原告に賠償すべき額は三九四万七七〇四円となる。

24,037,704-20,090,000=3,947,704

四  弁護士費用(請求四五〇万円)四〇万円

右に認定の損害額及び弁論の全趣旨に照らし、本件事故と相当因果関係に立つ弁護士費用は四〇万円が相当と認められる。

五  結論

したがって、原告の請求は四三四万七七〇四円及びこれに対する本件事故の日である平成八年一〇月四日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める範囲で理由がある。

(裁判官 堀内照美)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例